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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)64号 判決

一 請求原因一、二の事実、すなわち、本願意匠の登録出願から本件審決に至る特許庁における手続の経緯及び本件審決の理由の要点については、当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決を取消すべき事由の有無につき検討するに、本件審決は、以下に説示するとおり、本願意匠及び引用意匠の構成並びに両意匠の構成上の相違点を看過誤認し、ひいて両意匠の類否の判断を誤つているから、取消を免れない。

(一) 本願意匠及び引用意匠の構成は、原告らが請求原因三(一)において主張する部分を措き、本件審決の認定するとおりであることは、当事者間に争いがない。

そして、右請求原因三(一)の事実については、そのうち本願意匠の構成に関する1(1)及び引用意匠の構成に関する2(1)、(2)、(5)の点がいずれも原告らの主張するとおりであることは、被告の認めるところであり、その余の点(但し、1(2)を除く。)は、成立に争いのない甲第二号証(本願意匠の図面代用写真(〔編註〕省略))、及び検甲第二号証(引用意匠を現わした物品たる八二〇型ナシヨナルボタン電話機であることは争いがない。)により、原告ら主張のとおりであることが認められる。

(二) 本願意匠と引用意匠の構成を比較すると、両意匠は、本体上面のダイヤル回転板、押釦及び記名プレートの各配置において共通し、本体上面が前方へ傾斜し、周側がやや上方内側に向つて傾斜し、底面が略縦長四角に近い感じの形状であり、本体の後部に送受話器を載置するという基本形態において一致することは、当事者間に争いがない。

一方、前掲甲第二号証、検甲第二号証のほか、成立に争いのない甲第四号証の一ないし一〇(本願意匠と引用意匠を対比する写真。別紙(二)に同じ。)及び検甲第一号証(本願意匠の実施品たる電話機であることは当事者間に争いがない。)によれば、両意匠の間には、少なくとも、以下の相違点の存在することが認められる。すなわち、

1 引用意匠は、本体上面の前方への傾斜面が中央に向つて凹陥した弯曲面となつており、その中央の低くなつた位置にダイヤル部が埋め込まれるように取付けられているのに対し、本願意匠は、本体上面の前方への傾斜面に、最前部が僅かに陥没し最後部が上面より高く浮き上つている丸台部が形成され、この丸台部は本体上面の傾斜面より勾配の急な斜面となつており、その上にダイヤル部が取付けられているため、ダイヤル部が後方ほど本体上面の傾斜面より浮き出ている。

2 引用意匠は、ダイヤル数字表示面が暗調子で、ダイヤル回転板が無色の透明板であるのに対し、本願意匠は、ダイヤル数字表示面が中間調子で、ダイヤル回転板がそれよりやや明調子の非透明板である。

3 引用意匠は、本体上面の後部が、ダイヤル部の直上から送受話器受台部に至るまで、前方傾斜面とは逆方向の後方への下り傾斜面となつており、この後方への傾斜面と前方への傾斜面との境目には、上方へ緩く弯曲した横の稜線が明確に表われているのに対し、本願意匠は、本体上面の後部も送受話器受台部に至るまで前方傾斜面と同じ前方への傾斜面であり、引用意匠におけるような逆方向への傾斜面はなく、したがつて境目をなす稜線もない。

4 引用意匠は、送受話器受台部における三つの凹陥部が前記後部への傾斜面に刳られて形成されており、これらとダイヤル部とがその間に前記稜線部を介在させて比較的離れているのに対し、本願意匠は、送受話器受台部における三つの凹陥部が前方への傾斜面の後部に直接刳られて形成されており、特に両側の凹陥部がいわばV字状に傾斜面に深く刳り込まれ、ダイヤル部との間隔が引用意匠のそれと比較して接近している。

(三) 成立に争いのない甲第五号証の一ないし六、第七号証の一ないし四、第八号証の一ないし六、第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一ないし三、第一二号証、第一三号証によれば、本願意匠と引用意匠との間の(二)の項冒頭摘記の共通点ないし一致点は、一般に、押釦付電話機の意匠にありふれた基本的構成であることが認められるけれども、押釦付電話機の通常の使用態様、設置態様等に照すと、右の基本的構成が主として本体上面に関するものである以上、やはり看者の注意を惹くものであることは否定し難く、これをもつて看者の注意を惹かないとする原告らの主張は採用することができない。しかしながら、前記認定した両意匠間の本体上面に関する相違点もまた看者の注意を惹くところであつて、特に、引用意匠は、本体上面の傾斜面がダイヤル部を中心として凹陥しているとの印象を与えるのに対し、本願意匠は、逆に、ダイヤル部の取付けられている丸台部が後方ほど傾斜面より高くなつているため、傾斜面がダイヤル部を中心として突出しているとの印象を与え、また、引用意匠においてはダイヤル部の上方傾斜面の頂辺に稜線が截然と表われているのに対し、本願意匠においては右のような稜線は見られず、送受話器受台部の左右凹陥部が前方傾斜面に深く刳り込まれている点も注目を惹くところであり、被告の主張するように、これらの相違点が些細な部分の微差にすぎないと断定することはできない。

以上の認定及び判断を総合考究すると、本願意匠は、引用意匠と基本的構成において共通しているものの、全体として、看者に対して与える印象は引用意匠と異なるとみるのが相当であり、したがつて、両意匠は互いに類似するものとはいえず、結局、審決の結論は誤つているといわざるをえない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴請求を正当として認容する。

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